半導体ナノ結晶は量子閉じ込め効果によりバルクとは異なる性質を示す近年注目を集める材料の一つである。研究代表者はカチオン性の表面を有する発光性のCdTeナノ結晶が疎水性のイオン液体中に容易に抽出され、発光特性の大幅な向上を示すことを見出した。本年度は、イオン液体中におけるCdTeナノ結晶の低温発光特性に注目し研究を行った。 CdTeナノ結晶はイオン液体中、極低温において、室温からの大幅な発光強度の向上を示し、100K以下においてはその発光量子収率は90%以上まで増強された。水溶液中においては、水の結晶化に伴うナノ結晶表面の乱れから非発光性になることがtemperature-antiquenching effectとして知られており、イオン液体中とは対照的である。イオン液体特有の溶媒和効果、ガラス・結晶化挙動が影響しているものと思われる。また、低温においては、その高い発光量子収率のため無輻射の熱緩和過程をほぼ無視することができ、CdTeナノ結晶の励起状態を詳細に評価することが可能となった。発光量子収率、発光エネルギー、発光寿命の温度依存性をそれぞれ評価したところ、CdTeナノ結晶の励起状態における微細な深ネルギー分裂(〜10meV)を分光学的に初めて解明することに成功した。
|