本研究では、磁場を利用した物質浮上法である磁気アルキメデス浮上法を、汎用性の高い安価な永久磁石を用いたシステムに応用する。具体的には、ある液体を別の液体中に浮上させることで、容器の壁などと接触していない純粋な液液界面を作り、界面化学反応に付随した非線形現象を解明することを目的としている。 昨年度、最大磁場強度0.4テスラのNd-Fe-B系の永久磁石(穴の開いた円筒型)を用いて、約1mlのニトロベンゼンを濃度の濃い塩化マンガン水溶液中に浮上(磁気アルキメデス浮上)させることに成功した。その結果、液体界面の様々な点から円状に広がる対流のような運動が不規則に表れることが観測された。本年度は、この対流に着目し、界面活性剤としてタンパク質分子を用いて、その吸着挙動を観測した。また、その応用として分子の自己組織化現象についても研究を行った。界面での対流は吸着分子の輸送を促進する重要な要素である。そこで、希薄なタンパク質溶液を用いて気液界面に吸着した分子の三相接触線方向への輸送に界面での対流を利用して、タンパク質の二次元的な結晶成長を行った。その結果、これまでに報告されている他のどんな二次元結晶よりも大きなサイズを持ち、且つ結晶性の高い二次元分子結晶を得ることに成功した。今回用いたタンパク質は、外径12nm球形のタンパク質であるフェリチンを用いたが、フェリチンは、内部に金属化合物や半導体の微粒子を保持することが出来るタンパク質としてよく知られた物質であり、本手法によって、数10mm四方にも及ぶ酸化インジウムの量子ドットアレイの作製が可能であることが示された。この結果は、分子の特異的・非特異的相互作用の研究や、タンパク質の電子顕微鏡構造解析・機能解析、高密度ナノエレクトロニクスへの応用研究において、有益な情報を与えるものである。
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