研究概要 |
研究代表者の所属研究室で開発された転写で機能する人工塩基対は、人工塩基対の相補性にしたがってRNA中へ部位特異的に人工塩基を導入することができる。本研究は、RNA中に転写反応により部位特異的に導入することのできる蛍光性人工塩基を利用し、核酸の蛍光プローブとしての有用性を明らかにすることを目的として研究を行った。 代表的な蛍光性塩基である2-アミノプリン(AP)の蛍光と比較して、2-アミノ-6-(2-チェニル)プリン(s)や2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン(v)の蛍光性人工塩基が一本鎖DNA中に導入された場合、どのように蛍光強度が変化するか調べた結果、APの蛍光強度はヌクレオシドの蛍光に比べて6%まで大きく消光されてしまうが、sやvの蛍光は隣接する核酸塩基の消光作用をあまり受けずに、ヌクレオシドの蛍光強度に対して49%(s),36%(v)保持していることを明らかにした。さらにsやvを含むDNA断片が二本鎖を形成した場合、ヌクレオシドの蛍光強度に対して23%(s),10%(v)に消光されるが、二本鎖形成に伴う蛍光強度変化はAPに比べて大きく、核酸の構造変化を感度よく追跡できる蛍光プローブとして利用できることがわかった。またsやvの発光極大は、フルオレセインのUV吸収と重なりが存在するため、フルオレセインへの蛍光共鳴エネルギードナーとしても利用することが可能であることもわかった。 さらに最近所属研究室により開発されたDs-Pa塩基対は、複製(PCR)と転写で機能する人工塩基対である。Ds塩基は、370nmに発光極大を有する蛍光性人工塩基で、その蛍光量子収率は0.19である。このDs塩基の蛍光量子収率は、sやvよりも小さく、短波長側に発光極大が存在するため、sやvに比べて蛍光プローブとしての実用性は少ない。そこで、このDs塩基を改良したDss塩基を化学合成したところ、発光極大はsやvとほぼ同様の460nmに長波長側にシフトし、蛍光量子収率も0.32と大きいことから、このDss人工塩基は実用レベルの蛍光性人工塩基になる可能性があることがわかった(特許出願準備中)。
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