大腸菌から抽出したリボソームを用いた無細胞翻訳システムは、タンパク質合成が一方向に進行するバイオナノマシーンである。このような複雑な複合体形成過程を含む反応メカニズムを明らかにする一つの手法は、シミュレーションとして個々の分子の動きをコンピューター上で再構成することである。無細胞翻訳システムを生体内複雑系システムのモデルとして着目し、水晶発振子マイクロバランス法を用いてリボソーム、mRNA、各因子間における個々の相互作用について結合定数(Ka)、結合速度定数(k1)、解離速度定数(k-1)を決定し、得られたこれら動力学定数を用いて無細胞翻訳システムの複合体形成ステップの様子をシミュレーションすることを目的として研究を行い、以下の成果を得た。 1)培養した大腸菌をフレンチプレスで破菌し密度勾配遠心を行いリボソームを調製した。mRNAをin vitro転写系により調製し、5'-末端をビオチン化した。開始因子、伸長因子、終結因子及びアミノアシルtRNA合成酵素を大腸菌タンパク質発現システムにより調製した。tRNAを大腸菌からの抽出および精製により調製した。 2)水晶発振子上にアビジン-ビオチン結合を介してmRNAを固定化し、リボソームの結合挙動を観察した。その結果、mRNAには50Sリボソームはほとんど結合せずに、30Sリボソームと70Sリボソームが結合することがわかった。特に、開始因子IF3は、70Sリボソームを30Sリボソームと50Sリボソームに解離させ、30SリボソームのmRNAへの結合を促進することがわかった。
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