大腸菌から抽出したリボソームを用いた無細胞翻訳システムは、タンパク質合成が一方向に進行するバイオナノマシーンであり、その反応メカニズムは興味深い。生体内で重要なタンパク質翻訳過程において直接観察は困難である複数の分子が関与する翻訳開始複合体形成過程を濃度と動力学定数の関数としてコンピューター上でシミュレーションすることにより複合体形成メカニズムを解明することが可能であると期待される。そこで無細胞翻訳システムを生体内複雑系システムのモデルとして着目し、水晶発振子マイクロバランス法を用いてリボソーム、mRNA、各因子間における個々の相互作用について結合定数(K_a)、結合速度定数(k_1)、解離速度定数(k_<-1>)を決定し、得られたこれら動力学定数を用いて無細胞翻訳システムの複合体形成ステップの様子をシミュレーションすることを本研究の目的とした。 無細胞翻訳システムに必要なリボソーム、mRNA、各タンパク質因子群をそれぞれ調製することができた。mRNAを水晶発振子基板上へ固定化する方法を確立し、さまざまなmRNA配列に対するリボソームの相互作用について動力学解析を行い、結合定数(K_a)、結合速度定数(k_1)、解離速度定数(k_<-1>)を決定することができた。さらに、各タンパク質因子存在下でのmRNAに対するリボソームの相互作用解析を行い、得られた結果を比較したところ、リボソームがmRNAに結合する開始複合体形成過程における複合体組み上げ経路について、2つの経路が存在することを示唆する結果が得られた。
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