特定分子を選択的に認識し応答するセンシング分子は、化学物質を選択的に計測することができる優れたツールであり、目的物質を単離することなく定量することが可能である。特に、現在のポストゲノム時代において、細胞内外に作用する分子の働きを生きたままの状態で捉え生体内のダイナミクスを可視化し解析できる蛍光プローブの開発が重要な研究課題となっている。本研究では、無数に存在する生体関連物質の中でも亜鉛イオンとリン酸アニオンに着目し、それぞれに対し選択的な蛍光応答(蛍光波長のシフト)を示す分子を設計および合成することを目的とした。平成17年度は各種蛍光プローブの合成と機能評価を中心に研究を進め、次のような研究成果が得られた。まず、亜鉛蛍光プローブでは、2-フェニルインドール骨格を蛍光部位として用い、4位にスルホンアミド基を導入したZID1を合成した。詳細な分光学的測定やX線結晶構造解析の結果から、ZID1は亜鉛イオンの配位によってスルホンアミド基が脱プロトン化され、亜鉛イオンに対し強く結合していることがわかった。また、ZID1の蛍光応答は亜鉛イオンに選択的であり、高濃度のアルカリ金属やアルカリ土類金属イオンの共存下でも機能することがわかった。一方、リン酸アニオンセンサーの開発では、アミノクマリンを蛍光団として有するDPA-MQを合成した。DPA-MQはカドミウムイオンと錯形成することによってリン酸誘導体に対するプローブとして機能することがわかった。すなわち、DPA-MQのカドミウム錯体の蛍光励起波長は、ATP、ADP、PPiなどを添加することによって長波長側へと大きくシフトすることがわかった。これらの研究成果は第55回錯体化学討論会、日本化学会第86春季年会でそれぞれ口頭発表している。
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