各種細胞、特に大腸菌細胞を用いたPCA (Protein fragment complementation assay)法は、細胞内における異なる2つの分子の相互作用を検出する方法として報告、確立されつつある。動物培養細胞などの真核生物を用いた同手法についても報告があるが、増殖速度が極めて速い大腸菌を用いた場合に比べて、コストや時間の面で不利となることが多い。本研究課題では生化学・分子生物学実験における真核生物のモデルとして汎用されている酵母Saccharomyces cerevisiaeを用いたPCA法の確立に取組んだ。分子間相互作用の検出方法としてのPCA法を、標的分子のリガンドスクリーニングへ応用することを視野に実験を開始した。昨年度までに、細胞内情報伝達系に関わるタンパク質(Gタンパク質ならびにその下流のタンパク質)分子間の相互作用の検出をモデルとして、PCA法のプロトコル確立のための準備実験を行った。タンパク質相補性の指標には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を利用するため、DHFR遺伝子のクローニングとベクターを構築した。2年目に当たる本年度は、他のタンパク質フラグメントを用いるPCA法についても検討を行い、LacZを用いたPCAプラスミドの構築も行った。昨年度DHFR分子を2つに分割してそれぞれのベクターに導入して、ターゲットとなる細胞内情報伝達分子と融合させたプラスミドを用いて形質転換を行い、スルファニルアミドを添加することで、トリメトプリムの増殖阻害効果を向上させた。本研究で宿主とした酵母MT8-1株では、一定モル比で培地に添加した場合、増殖が最も阻害されることが確認でき、PCAでのスクリーニング条件としての指標物質の最適濃度を確認した。さらにβガラクトシダーゼ(LacZ)を用いた検出系では、前培養条件や検出に必要なβガラクトシダーゼの基質の検討を行い、短時間で相互作用を検出できるめどが立った。このように、ターゲットにアフィニティ結合を示す人工抗体のPCAスクリーニング手法の基礎が完成した。
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