粗面小胞体において糖タンパク質フォールディングセンサーとして働くUDP-グルコース糖タンパク質グルコース転移酵素(UGGT)は、ミスフォールドしたタンパク部分と、その表面に存在する高マンノース糖鎖の双方を認識し、糖鎖の非還元末端にグルコースをひとつ転移して、フォールディング促進のシグナルであるモノグルコシル化糖鎖を生成する。その認識機構は複雑で未だ不明な点が多いため、人工基質は創製されておらず、天然糖タンパク質およびその類縁体を用いた解析しか報告されていない。しかしながら、天然糖タンパク質を基質として用いた場合、その糖鎖は多様な構造の混合物であるため、基質構造と活性の相関を厳密に評価することが不可能である。 このような背景の中、本年度はタンパク質やペプチド構造を持たない、初の小分子UGGT基質「Man9GlcNAc2-メトトレキセート(MTX)」の合成を達成した。そのUGGTに対する活性は、汎用基質である糖タンパク質「変性チログロブリン」と同等以上であった。また、この基質を用いてUGGT反応で生成するモノグルコシル化糖鎖の構造を初めて化学的に決定した。さらに様々な小胞体型糖鎖を有する人工基質を合成し、それらの反応性を定量的、速度論的に解析することで、UGGTの糖鎖特異性を決定した。加えて、非天然型糖鎖を導入した基質で反応性を評価することにより、UGGTの認識にはキトビオース構造が必要なことを見出した。
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