本研究の目的は、従来難題とされてきたタンパク質などの生体分子における酸素NMR法を開発し、タンパク質の構造および機能解析に応用することである。本年度の研究において、以下の研究実績を報告する。当グループが開発したアミノ酸への酸素同位体標識技術(国内特許2006-8666、現在国外特許申請中)を用いて、種々の生体分子へ酸素17安定同位体の標識を施し、高磁場固体NMR測定を行った。これら網羅的なNMR測定およびスペクトル解析の結果、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸、および生理活性に関わるペプチドの酸素NMRテンソル量を正確に計測することができた。従来の研究では、NMRテンソル量を計測するためには、試料を単結晶にする必要があり、試料調整に問題があった。本研究では、調整が容易な粉末試料を複数の異なる磁場強度のNMR装置で測定を行い、量子化学計算法の結果と併せて、それぞれ得られたNMRスペクトルをプログラム解析をした。大多数の生体分子は容易に単結晶を形成しないことから、この手法は今後の生体分子の研究において重要である。また、今年度の研究成果より、酸素NMRパラメータの一部(遮蔽テンソルの一成分)は、水素結合の強度と相関をもつことが分かり、水素結合強度を計測できる新規パラメータとして、将来のタンパク質の機能解析に応用が期待できる。これら研究成果は投稿論文において発表した(平成18年度研究成果参照)。さらに、未発表のアミノ酸、種々のペプチド、そして、巨大分子であるタンパク質の酸素NMR法の開発および応用の研究成果については、現在、投稿中または投稿準備中である。
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