本研究は、移動度測定法・化合物の凝集状態・有機薄膜作製法が電荷輸送特性におよぼす影響について検討し、有機固体における電荷輸送現象を理解するとともに、それを基礎として、有機薄膜を用いる電子デバイスの動作特性の理解と特性向上のための指針を得ることを目的としている。本年度は、前年度に引き続き、有機半導体の電荷移動度(μ)を飛行時間測定法(TOF法)および電界効果トランジスタ法(FET法)を用いて決定し、それらの値を比較・検討することにより、電荷移動度測定法が電荷輸送特性におよぼす影響を分子構造と相関させて詳細に検討した。また、化合物の凝集状態・有機薄膜作製法が電荷輸送特性におよぼす影響について検討した。 研究代表者らが設計・合成した7種の化合物のガラス状態におけるμ_<FET>とμ_<TOF>を測定した。μ_<FET>とμ_<TOF>の関係は分子構造に大きく依存し、μ_<FET>とμ_<TOF>がほぼ等しい分子と、μ_<FET>がμ_<TOF>に比べて小さい分子が存在すること、ならびに、その差は大きいもので三桁程度であることを明らかにした。 蒸着法ならびにスピンコート法により作製したアモルファス薄膜におけるμ_<FET>を測定し、蒸着膜におけるμ_<FET>がスピンコート膜に比べて大きいことを明らかにし、有機薄膜作製法が電荷輸送特性に影響をおよぼすことを示す結果を得た。さらに、アモルファス膜ならびにアモルファス膜の加熱処理により得られる結晶膜の移動度をTOF法を用いて決定し、結晶膜の移動度がアモルファス膜の移動度に比べて一桁程度大きいことを明らかにした。
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