研究概要 |
金属-ジオンジオキシマート錯体は斜方晶系に属し、中心金属が鎖状に連なる典型的な一次元物質である。これらの錯体は加圧により美しく色を変化させる。この性質を利用すると色で圧力を知ることができる。また、大気圧下において絶縁体であるが加圧すると電気抵抗率を急減させる。白金錯体の中には電気抵抗率が17桁もの顕著な変化を示す錯体があり、抵抗圧力計として利用できる。白金錯体の薄膜は基板により配向の方向を変える事が知られている。石英、サファイア及びダイヤモンドなどの絶縁性透明基板上に薄膜を作成し、電気的・光学的性質の圧力依存性を研究し、最適な基板を決定して高圧力センサーデバイスを開発する事を目的とする。 本年度は金属-ジメチルグリオキシマート錯体[M(dmg)_2,M:Ni,Pd]を合成し常圧下または高圧下において粉末X線回折及び電子スペクトルの研究を行った。Ni(dmg)_2及びPd(dmg)_2はそれぞれNiCl_2及びK_2PdCl_4の飽和水溶液をジメチルグリオキシムの熱飽和エタノール溶液に加えて合成を行った。 M(dmg)_2錯体は化学変化することなしに昇華するため、真空蒸着法を用いて容易に薄膜を作成できる。高真空下においてガラス、NaCl、KBr、サファイア及びダイヤモンドに蒸着膜を作成しNi(dmg)_2薄膜の研究を行った。ガラス基板に蒸着した薄膜は可視領域に2つの吸収帯を持つ。400nm付近に金属から配位子への電荷移動吸収帯(M-L遷移)、550nm付近に中心金属のd-p遷移に基づく吸収帯が現れる。NaCl基板に蒸着した薄膜では長波長側のピークが消失し、短波長側の吸収帯のみ現れることを見出した。ダイヤモンド及びサファイヤ基板上ではガラス基板に蒸着させた薄膜と同様にd-p遷移に基づく吸収帯が現れた。しかし、KBr基板ではNaCl基板と同様に550nm付近の吸収帯は観測されなかった。 分子科学研究所に設置された顕微測光装置を用いてM(dmg)_2の吸収スペクトルの圧力変化を調べ、KEK PFとSPring-8の軌道放射光を用いてM(dmg)_2の結晶構造の圧力変化を詳細に研究した。これらの錯体の常圧における格子定数は同程度である。加圧すると一次元鎖方向(c軸)が最も縮みやすい。次いでa軸、b軸の順となることが分かった。Ni(dmg)_2のd-p遷移に基づく吸収帯は加圧すると-600cm^<-1>/GPaでシフトしていく。しかしPt(dmg)_2のd-p遷移の吸収帯では-2300cm^<-1>/GPaと大きくシフトする。M(dmg)_2の加圧による格子の変形は同程度であるが物性の変化は大きく異なることが見出された。
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