GaNはバンドギャップが大きく、スピン軌道分裂も小さいことから、非常に長いスピン緩和時間を持つと予想されていた。最近、窒化物半導体のスピン偏極の観測例がいくつか報告されているが、そのスピン緩和時間は低温(15K)でも4.7psと短い。窒化物半導体のスピン緩和時間が短い理由としては、非常に高い転移密度(〜10^9/cm^2)や歪が影響している可能性がある。本研究では貫通転移密度や歪の少ないバルクGaNのスピン緩和時間を測定した。 サンプルは、古河機械金属(株)によりハイドライド気相成長法で成長した(11-22)面バルクGaNである。このサンプルの転位密度は10^6〜10^7/cm^2と通常のMOCVD法による成長に比べて2桁程度少ない。キャリアのスピン偏極を観測するためには、円偏光パルスを利用する時間分解ポンプ・プローブ反射測定を用いた。光源は極短パルスチタンサファイアレーザの第二高調波であり、波長を調整することでA励起子を共鳴励起した。この測定系の時間分解能は計測に用いる光パルスの時間幅により決まり、約0.2psである。 17Kにおいて測定によって得られたスピン緩和時間は励起光強度20mWで38.4psであったのに対し、励起光強度5mWでは428psまで長くなった。この値は従来のサファイア基板上に成長したGaNのスピン緩和より二桁遅い。また、キャリア密度の低くなる弱励起ほどスピン緩和時間が短くなることから、スピン緩和の機構としてはBir-Aronov-Pikus(BAP)が支配的であると考えられる。転位密度の低減によるものか、面方位の違いによるものかは不明であるが、Elliot-Yafet(EY)効果やD'yakonov-Perel'(DP)効果が抑制され、スビン緩和時間が長くなった可能性がある。
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