半導体中の励起子を高効率に長距離輸送するために、試料内部に励起子に対するポテンシャル勾配を作り込む方法の開発を、前年度に引き続きおこなった。 まず、GaAs-AlGaAs量子井戸構造にGa収束イオンビーム照射をおこない、その後の熱処理における相互拡散をとおして、量子井戸準位のシフトを引きおこすことを試みた。相互拡散の強さは、イオン注入に伴う欠陥生成量に依存するので、照射量に重みをつけることによって量子井戸準位の勾配を実現できる筈である。 適切な照射量と熱処理条件を研究した結果、10^<12>/cm^2程度の照射量によって、約30meVもの準位シフトが引きおこされることがわかった。しかし、照射量をそれ以上としてもシフト量は僅かしか増加せず、この照射量にてシフトは既に飽和状況にあることもわかった。当研究で利用可能なイオン照射器の最低照射単位は1×10^<12>/cm^2なので、現状では、シフト量の制御は困難となった。 上記の結果は700℃の熱処理によって得られたが、この温度では、イオン照射による結晶の損傷を充分に回復することができず、蛍光強度の回復は充分ではなかった。ところが、これ以上の温度では、脱離過程により新たな欠陥が生成され、却って蛍光は見られなくなってしまう。結局、量子井戸構造が試料のごく表面付近にあるため、欠陥回復と相互拡散の双方を満足させる熱処理は困難であることがわかった。 また、同様の実験を、InGaN-GaN量子井戸構造に対しても試みた。照射量は10^<12>〜10^<14>/cm^2とし、熱処理温度は800℃〜1000℃としたが、準位のシフトも欠陥回復の良い条件も発見されなかった。準位のシフトが見られない理由は、元来、利用可能な量子井戸の不均一幅が大きかったためであると考えられる。熱処理の条件については、950℃以下では欠陥が回復せず、それ以上では新たな欠陥の生成を避けることが出来なかった。
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