代表者は、現所属期間に移籍したばかりであったので、いち早く、成膜装置、測定システムを構築することを重点的に行った。その結果、前期中にほぼシステムが構築され、実験が可能な状態になった。その後、より高効率のスピン流を抽出及び注入できる構造を、これまでに開発したアルゴリズムを用いて設計し、スピンバルブ素子の試作を行った。まず、強磁性体のスピン抵抗が、強磁性/非磁性接合の接合面積に反比例することに着目し、接合面積を小さくすることで、スピン注入端子の最適化を行い、高効率のスピン注入を実現した。そして、その最適化したスピンバルブ素子を用いて、非局所スピン注入により、微小磁性体の磁化状態を、注入スピンと反平行な状態から平行な状態に遷移させることに成功した。また、スピントルクの角度依存性についても実験を行い、微小磁性体の磁化が注入されるスピンと完全に反平行な状態よりは、少し傾かせたほうが有効にスピントルクが働くことを実験的に確認した。同様の実験を磁性細線内に生じる磁壁についても適用し、スピン流が磁壁の伝播、及び生成に寄与することを実験的に検証した。この他、注入スピンの方向を制御する手法として、新たに反強磁性体を用いる手法も提案・実証したり、面内スピンバルブ素子を用いた磁気渦や還流磁区構造の旋回方向の検出手法の提案・実証、及び二端子強磁性電極を用いた高効率スピン注入の実現も可能にした。これらの結果は、面内スピンバルブ素子の性能や素子応用の可能性を飛躍的に向上させたと考えられる。
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