良く定義された半導体表面上に有機分子を吸着させ、その構造や電子状態を調べることは意義深い。本年度はこれまで行ってきた窒素を含む分子(ピロール、ピラジン)と吸着構造の比較をするため、カルボキシル基を含んだ有機分子である酢酸をシリコン表面に吸着させ、その吸着構造について走査トンネル顕微鏡(STM)や光電子分光(PES)により調べた。 STMによる研究によって酢酸は室温での吸着時にシリコンダイマーの直上に存在することが分かった。この吸着構造についてPESによって調べた結果、C1sスペクトルにメチル基と力ルボキシル基に由来する2つの成分が存在していることが分かった。カルボキシル基に対応する炭素のエネルギー位置から、酸化数は2であることが判明し、分子内の2つの酸素がそれぞれシリコン原子と結合を持っている構造モデルを提案した。本結果はこれまでにPhys.Rev.Bに発表されている理論計算から類推されている構造モデルとは異なっている点で興味深い。この内容は2つの国際会議(ACSIN-9及びInterAcademia2007)にて発表された。 また、シクロヘキサジエンの吸着したシリコン表面の構造について光電子回折(PED)により再度検討し直し、その吸着構造とC1s内殻準位の成分との対応を調べた。本結果はPhys.Rev.Bに掲載された。
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