本研究の目的は、レーザーで誘起した分子の過渡的な空間配向を利用することによって、高強度な紫外フェムト秒レーザーパルスを発生できる光パルス圧縮技術を開発することである。よって、本年度は紫外レーザーパルスに位相変調を与えるのに必要な分子の超高速配向を、実時間で高感度検出・制御できる基礎技術の確立を目指した。得られた知見を以下に示す。 1.窒素、酸素、二酸化炭素分子の第19次高調波信号から、分子配向はfield-freeな状態でそれぞれ8.4、11.6、42.7ps毎に完全に回復することを観測した。この回復時間は各分子の回転定数で決まる回転周期と良く一致した。 2.窒素、酸素、二酸化炭素分子から観測される高次高調波信号を周波数解析することにより、観測した信号はコヒーレントに励起された回転準位間のビート信号であることが分かった。 3.窒素分子の第19次高調波信号は、分子軸に対して平行方向に最も効率良く高調波を発生することを観測した。一方、二酸化炭素分子の第19次高調波信号は、分子軸に対して垂直方向に最も効率良く発生し、イオン化確率分布とは異なる傾向を示した。 4.配向した窒素、酸素、二酸化炭素分子からの第5〜19次高調波を観測したところ、窒素分子では第11次、二酸化炭素分子では第9次高調波信号だけが他の次数に対して時間波形の位相がほぼπ異なる信号を観測した。一方、酸素分子では明確な位相の反転は観測されなかった。 5.二酸化炭素分子からの第9次高調波信号については、分子軸と45°方向に効率良く高調波を発生することを観測した。高調波発生の角度分布がイオン化確率と良く一致しているので、第9次高調波発生にはイオン化過程が支配的であることが分かった。
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