セルフフラックス溶液を用いたTSSG法により、波長変換結晶CBO(CsB_3O_5)の単結晶成長を行った。昨年度までの研究により、育成した結晶を融点近くまで加熱し、急冷処理することで内部の散乱源が除去できることを示した。また、蒸気雰囲気中で熱処理を施すことで光散乱源が低減することを見いだしている。一方で、熱処理した結晶はレーザー損傷耐性が低下するという現象に関しては、未解明のままであった。本年度は、このレーザー損傷に関して詳しい調査を行った。 結晶育成した直後のCBO結晶に355nm光の紫外光パルス(約5ns)を照射し、1-on-1法を用いてレーザー損傷閾値を調べた。レーザー損傷閾値は溶融石英(OX)との比較により相対評価した。熱処理前の結晶(as-grown結晶)は溶融石英の約4倍の高い損傷耐性を示していた。しかしながら、切り出した結晶素子を400℃以上に再加熱すると高温にするほど損傷閾値が低下し、650℃以上では石英の半分以下の値になることが明らかになった。結晶成長直後の冷却中に650℃で保持した場合も損傷耐性の低下が見られたが、この場合は石英の2倍程度であった。さらに詳しく調べた結果、自然成長面で囲まれた結晶では損傷耐性の低下が比較的抑えられていることが明らかになった。過去の研究で、CBO結晶は表面にCs過剰のアモルファス層を形成しやすく、高温に加熱すると結晶の重量減少が生じることも明らかにしている。このことから、現在、CBO結晶は高温においてアモルファス層からのCs成分減少により、内部から新たにCsが拡散し、アルカリハライド結晶で知られているようなショットキー型の点欠陥が生まれてレーザー損傷発生起点になっているというメカニズムを考えている。以上の考察を元に、結晶の育成条件を見直し、溶融石英の5.2倍の損傷閾値を有するCBO結晶の作製に成功した。
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