研究概要 |
本研究では,情報光学技術に基づく大規模因数分解システムの開発を最終的な目的としている。Shorの量子アルゴリズムと等価な処理手順について検討し,中国剰余定理に基づく因数分解に着目した。このアルゴリズムにおける主要処理部である乗算剰余演算のための光学的手法を提案するに至っている。 提案手法では,被除数と除数の対応関係を位相情報として表現することで,剰余項に特有の信号を生成させる。また,マイケルソン干渉計を用いたシステム構成を考案し,並列乗算剰余演算に拡張できることを示している。このシステムでは,並列乗算剰余演算における被除数と除数がパラメータとなる。これら2種のパラメータから,干渉光学系に配置された一方の反射鏡の傾き角を算出することで,受光素子アレイ上に乗算剰余演算を行うための波動場分布を生成させることができる。 本システムの特性を考察し,単一素子の位置を制御することで複数のデータに対する並列処理が行える点,扱う整数の大きさに対してシステム規模が依存しない点,などの有益な特徴があることを明らかにしている。システムの実用性を示すため,小規模な因数分解問題適用時における耐ノイズ特性を解析的に評価している。その結果,提案手法が10%を超えるランダムノイズに対して有効であることを確認している。 提案する並列乗算剰余演算器を試作した。試作機では,干渉計の光源に波長670nmのレーザーダイオード(LD)を,検出器にCCDを用いる。LDから発振される光をビームエキスパンダーで平面波にし,ビームスプリッターにおいて,物体信号と参照信号に分割する。参照信号側には,光軸方向に垂直な反射鏡を,物体信号側に自動角度ステージを取り付けた反射鏡が設置されている。角度ステージにより物体信号の波面を傾けることで,CCD面上に所望の結果が得られる。システムの検証実験を行った結果,15ビット長を有する整数の因数分解に必要な乗算剰余演算が実現されることを確認している。
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