研究概要 |
本研究は,大規模因数分解システムのための光情報システム開発を最終的な日的としている。前年度までに,Shorの量子計算アルゴリズムと等価な処理手順を検討し,主要処理部である乗算剰余演算を大規模並列に行うための光学干渉に基づく手法を提案している。マイケルソン干渉計を用いた基本システム構成を提示し,単一の素子(反射鏡)の制御により多点並列処理が行える点,データサイズに対してシステムが大規模化しない点などの提案手法の有益な特徴を明らかにしている。 今年度は,提案手法の処理能力を向上させるためのシステム改良を検討し,以下に示す3項目を実施している。第1に,二次元並列処理アーキテクチヤを新たに開発している。現状の受光素子アレイを考えた場合,画像センサ用途の二次元集積デバイスを有効利用することが有用である。そこで,干渉光学系において,分岐された平行信号光の両方の位相分布を変調することで,二次元並列化か実現されることを見いだしている。 第2に,従来システムでは,レーザダイオードであった光源を,高いコヒーレンス性能を有するヘリウムーネオン気体レーザに変更した。光源の変更により,計測される干渉信号のコントラストを向上させることができる。このことは演算精度の向上につながる。 第3に,高画素かつ高階調なアレイ受光素子を導入し,並列処理能力の大規模化と演算粘度の向上を図った。従来システムでは画素数640,8ビット階調の素子であったのに対し,1340×1024画素を有し,12ビット階調で信号を転送できる素子に変更した。 以上の項目が満たされる改良システムを作製し,その評価を行った。その結果,乗算剰余演算の並列度が約2000倍向上することを検証した。演算精度については,定性的な評価にとどまっているものの,従来システムにおける信号補正のための後処理が不要になり,その効果が確認された。
|