研究概要 |
シミュレータの応用および高速,並列処理化に向けた今年度の成果の概要を下記に要約する. 1.高速多重極アルゴリズム(EMA)を用いた2次元ランダム媒質中の高精細近傍界計算 研究代表者が昨年度提案した上記計算法を用いて,数千個の誘電体円柱からなる2次元ランダム媒質中の波動場のコヒーレント成分およびインコヒーレント成分を算定した.媒質に最初に波が照射される領域,つまり後方散乱方向に両成分のピークが見られることから,物体のランダム配置による影響は後方散乱方向に強く現れることが現時点でわかった.両成分はモンテカルロ法より算定しており,媒質を構成するさまざまなパラメータに対して統計的に妥当なサンプル数の決定が必要である. 2.多重散乱現象の時間的推移に基づいた逐次解法の提案 多物体電磁波散乱問題特有の多重散乱現象に着目し,大規模な問題を一括して解くのではなく,複数の小規模な問題を繰り返し解く逐次解法を提案した.後の調査の結果,本手法はIterative Progressive Numerical Method(IPNM)と数学的に等価であることがわかった.数値実験の結果,媒質を構成する物体の体積占有率が比較的小さいときには非常に有効であることが示された.また,異なる2つの小規模な問題は互いに独立であることから,前年度研究代表者が提案した並列版FMAを用いて小規模な問題の求解を並列に処理した.しかし,今回の並列版FMAでは物体の配置およびプロセッサ数に強い制約が生じるため,並列処理による効果が非常に低い.このため,並列処理法を改良することが重要である.また,高い体積占有率に対してもIPNMが有効となるための方策が必要である.
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