本研究は、水素処理法によるチタン合金のさらなる結晶粒微細化(ナノ組織化)を目的としている。水素処理によるチタン合金の結晶粒微細化に対する基本的考え方は、「マトリックスに微細な水素化物を分散析出させ、これと同じ大きさの再結晶粒を作る」というものであり、これまではこの考え方に基づいて微細化に挑んできた。しかしながら、さらなる微細化(ナノ組織化)のためには、別の着眼が必要である。そこで本研究で注目したのが水素処理中に生成する『針状マルテンサイト組織』である。水素を吸蔵したチタン合金は焼入れ性が向上し、実際に焼入れを行うと、非常に微細な針状マルテンサイト組織が生成する。通常の水素処理法では水素吸蔵、溶体化・マルテンサイト化処理を行って針状組織にした後に熱間圧延を施し、この針状マルテンサイト組織を粉砕して微細組織を得ていた。本研究ではナノ組織化を目指すため、針状マルテンサイトのさらなる微細粉砕を目指す必要がある。そこで、熱間圧延に代わる工程として強ひずみ加工法を水素処理の中に適用し、チタン合金のナノ組織化を試みることにした。供試材にはチタン合金の中では最も一般的な合金であるα(稠密六方晶)+β(体心立方晶)2相型Ti-6Al-4V合金を用いた。水素処理は水素吸蔵、溶体化・マルテンサイト化、熱間加工、脱水素の4工程からなっており、各工程のナノ組織化のための最適条件を探索する必要がある。そのうち水素吸蔵については0.3〜1.0wt.%の吸蔵量となる水素吸蔵条件を把握した。また、水素吸蔵量の異なる試料をβ変態点以上に加熱保持後、水冷することにより針状マルテンサイト組織となることも確認している。強ひずみ加工装置については金型固定用ジグが17年3月に完成、現在組み付けの状態である。試運転した後、これまでに得られた水素吸蔵材に強ひずみ加工を施し、ナノ組織化を目指す。
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