研究概要 |
申請者は,血球流動観察システムの改良にあたり,まず,血管モデルにも用いられるPVAを用いた微小流路の作成を試みたが,幅5μm,深さ10μmという微小な流路を作成するには材質としての精度が足りなかったため,以前より用いてきたPDMS製流路の改良を行った.PDMSは,ガラスとの自己吸着性があり,ガラス平板と接着させて容易に流路を作成することができるが,濡れた状態では吸着性が著しく減少するという問題があった.また,この流路に液体を流す場合,その細さ故に環流させることが非常に困難であった.そこで,流路入口および出口部分において,流路断面積が連続的に変化するように加工し,環流を容易にするよう改良した.これと同時に,東北大学大学病院の協力の下,血液から好中球を単離する手法を会得した.現在,ガラス平板と流路を圧着させるホルダーを作成中であり,これの完成を待って実際に血液を流動させる実験を開始する予定である. また,矩形流路における血球の三次元変形を数値的に解析し,従来の研究で行われた,軸対称流路における血球の変形・通過特性との比較を行った.種々の流路サイズ,血球物性で解析を行った結果,血球の流路通過時間に着目した場合,流路の水力直径を軸対称モデルと一致させることにより,通過時間が一致することを確認した.また,矩形流路では,流路の角と血球表面の間に隙間ができるが,血球が流路の上下壁および左右壁に接する条件下では,この隙間からの血漿の漏れは無視できることを明らかにした.さらに,この微小流路における好中球の流動モデルを毛細血管ネットワークネットワークに拡張し,肺胞内における好中球の流動を解析した.その結果,条件によって,対称なネットワーク内においても血球分布に不均一が発生することを確認した.これらの結果は,現在,専門雑誌に投稿中である.
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