氷点下での固体高分子形燃料電池の起動において、生成水の凍結が発電停止を引き起こす機構を明らかにするために種々の計測を行った。得られた主な知見は以下の通りである。 1.多孔質体であるカーボンペーパー内の水分の凍結は、赤外線サーモグラフィにより高温領域の伝播として可視化することができる。これは、過冷却水の凍結時に放出される凝固熱によりカーボンペーパー温度が一時的に上昇するためであることを明らかにした。また、高温領域の発生原因としては凍結による放射率変化の影響は少ないことを確認した。 2.自然給気型燃料電池において、低温起動時の急激な電圧降下と同時に、カソード面の高温領域の伝播が観察された。さらに、低温のまま解体した触媒層のカソード側表面に高温領域に対応した薄い氷の膜が観察された。これらより、低温起動時の燃料電池内では過冷却水が凍結・伝播する現象が起こることを明らかにするとともに、赤外線サーモグラフィを用いて発電中の燃料電池の凍結現象を高温領域の伝播現象として二次元的に可視化できることを示した。 3.低温起動において凍結による性能低下が生じる場合では、電流密度が高くなるほど発電停止までの時間が短くなる。ここで、発電時間より計算した生成水分量は極少量であるとともに、いずれの場合もほぼ等しくなっていた。 4.発電中のインピーダンス測定を行った結果、低温起動時の急激な電圧降下の際には、僅かな膜抵抗の変化に対して、大幅な反応抵抗の増加が生じることを明らかにした。これより、凍結による発電停止は、触媒層表面が氷に覆われることにより有効反応面積が減少するとともに、ガスの拡散抵抗が増加することが主な原因であると推定される。
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