研究概要 |
本研究では,形状記憶合金線を用いた編組体により衝撃荷重を柔らかく受け止め,さらに,状況に応じて力学特性を調整する適応能力を有する知的緩衝構造の実現を目指す.本年度の成果は以下の通りである. 1.昨年度に引き続いて形状記憶合金線単体の引張変形による衝撃吸収特性の評価実験を実施し,高速度域における変位と復元力の測定精度の改善を行った.低速応答については,物理モデル(Muller-Achenbach-Seeleckeモデル)および現象論的モデル(速度依存Preisachモデル)によるモデル化と検証を行った.一方,ひずみ速度10/s以上の高速域応答では変態応力の上昇が見られ,この効果の考慮が必須であることがわかった.このため,当初予定していた編組体の有限要素解析を中断し,高速域における材料単体の衝撃応答のモデル化の検討を行った. 2.衝撃を大変形により受け止めた後,自律的に原形状に復帰する知的緩衝シェル構造の実現を目指して,座屈現象と超弾性ばねに基づく緩衝機構の基礎検討を行った.軸方向に予圧縮ばねを有する2リンク機構は座屈特性を示すが,これに横方向ばねを加え,ばね定数を変化させると平衡点の位置や種類が分岐する.本研究では,横方向ばねとして超弾性形状記憶合金ばねを用いて,載荷時と除荷時の平衡点を意図的に変化させることによって,高い緩衝効率と消散効率を有する緩衝機構を実現した.提案する緩衝機構では,物体の衝突直後に変形を保持することによって高い消散効率を実現するが,その後,わずかなエネルギを与えることによって,たとえば形状記憶合金を加熱することによって,原型状に復帰させることができる.数値シミュレーションによって設計パラメータの最適化について検討を行い,模型実験によってコンセプトの実証を行った.さらに昨年度作成した形状記憶合金編組体シェルについても同様の現象が生じることを確認した.
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