研究概要 |
核融合装置や超電導電力貯蔵装置で用いられる大型のマグネット用の導体には,大電流通電(〜数10kA),強大な電磁力に耐えうるケーブル・イン・コンジット導体が用いられる.この導体は,超電導体のヒステリシス損失が最小となる,直径1mm程度の超電導素線を作成し,それを多数段にわけて撚り線加工し,金属ケース(コンジット)に収容される構造をしている.電流密度を上げるためににはボイド率(空隙率)を小さくする必要があるため,多段の撚り線導体は,圧縮力をかけてコンジットに収納される.マグネットの通電による交流損失測定実験では,強大な電磁力がかかると,交流損失の一つである結合損失が増大する現象が観測されている.この損失はほぼ時定数に比例し,短尺導体試験では時定数0.1sec程度であるのが,長尺では,数10secにも及ぶ. 結合損失は,導体内の2本素線が周期的に接触することによって形成されるループに変動磁界が加わり,遮蔽電流が発生することで生じる.時定数は電流ループのインダクタンスに比例し,素線間接触抵抗に反比例する.結合損失の増大は,電磁力によって素線の配置が変位し,素線間の接触抵抗が減少することで生じると考えられてきたが,電磁力印加の前後で素線の配置変化を直接調査した研究はなかった. 昨年度は,導体の一部を機械的に圧縮する実験を行い,電磁力印加と共に導体の横方向抵抗が減少する結果を得た.今年度は,素線配置の変位を直接観測するために,素線軌跡測定装置を開発した.このシステムは,一組の3軸方向マニピュレータと4端子法微少抵抗測定器,CCDカメラ,マニピュレータ制御プログラムから成る.まず1.電磁力模擬圧縮力が印加されえた導体(210mm長,486素線)を,エポキシで含浸した後に約10mm間隔で切断し,2.断面をホルダーに固定する.3.断面両方からCCDカメラで画像を取得,制御プログラム上に表示する.4.プログラム上で素線の位置をサークルに合わせることで素線位置を自動的に取得する.5.両面の素線位置を指定し,マニピュレータに移動信号を出して素線位置まで移動させ,同時に電極を当てて素線抵抗を測定する. 両面の素線対応が正しければ,素線の抵抗のみ(最小値)を測るが,異なる素線断面を指定すると,加えて素線間接触抵抗も測定することになるので,容易に断面の両側の素線対応がわかる.これを複数の断面で繰り返し,素線位置座標を繋いでいくことによって,486素線導体の詳細な素線軌跡を世界で初めて得ることが出来た.圧縮力印加部とそれ以外の部分を比較すると,素線配置の変位生じていることが明らかになった.
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