研究概要 |
本年度は,はじめに,出力電圧の安定化が可能な空心型経皮トランスの設計を行い,実用化可能なエネルギー伝送システムを試作した.次に,試作したエネルギー伝送システムを用い5〜20W伝送を行ったときの経皮トランス近傍の生体組織のSAR (Specific Absorption Rate)の解析を行った.解析は,伝送線路行列法(TLM法:Transmission-Line Modeling Method)を用いた電磁界解析ソフト(Micro-Stripes, KCC日本支店)を用い,本助成金で購入したパソコンを用いて解析を行った.人体の胴体部を楕円柱(短軸:230mm,長軸:280mm,高さ:625mm)とし,生体組織は皮膚,脂肪,筋の3層とした.胴の長さは成人以上の日本人男性の平均値を用いた.皮膚は5mm,脂肪は10mmの厚さとし,残りは筋とした.空心型経皮トランスの体外コイルは,外直径90mm(35回巻),内直径20mmとし,胴から5mm離れた場所に配置した.電磁界解析用メッシュはX軸方向に165本,Y軸方向に70本,Z軸方向に163本とし,コイル近傍を細かく(幅1mm)分割した.モデルの導電率,比誘電率は,イタリアのIFAC (Institute for Applied Physics "Nello Carrara")で定めされている値を用いた. 解析の結果,体外コイルに近い部分でSAR値が大きく,コイルからの距離1.5cm(脂肪層)において最大であった.最大値は75.6mW/kgであった.また,出力電力を変化させた場合,出力電力が5Wと20W時のSAR値の差は0.38mW/kgであり,出力電力が変化してもSAR値はほぼ一定値になることがわかった.さらに,周波数・出力電圧を変化させた場合について解析したところ,周波数,出力電圧が高い方がSARが大きくなった.このとき,周波数1MHz,出力電圧24VのときにSARは最大値を示し,その値は126mW/kgであった(20W伝送時).しかしながら,これらはICNIRPの基本制限(2W/kg)を大きく下回っており,生体に問題なく伝送できること確認できた.ただし,生体組織の誘導電流密度に関しては,ICNIRPの基本制限を超えるところもあり,次年度詳細な検討を行う予定である.
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