本研究は、有機薄膜太陽電池における構成分子の配向制御法を確立し高効率化することを目指している。これは、有機分子のもつ異方的な電子物性を、配向のコントロールにより制御することを目的としている。我々は前年度までに、ターゲットとなるH_2Pc分子の分子配向が、ごく薄いPTCDA配向層の挿入により変化することを見出している。本年度、我々は高性能化のために必要な結晶成長制御技術の開発を行った。 具体的には、ガラス基板ならびに透明導電膜上にPTCDA配向膜を形成し、その上にH_2Pc薄膜ならびにH_2Pc : PTCDA共蒸着薄膜を形成することで、基板上の薄膜の配向制御を試みた。通常、これらの基板上にH_2Pc薄膜を直接形成した場合、基板-分子間相互作用が弱いためH_2Pc分子面は基板表面に対し垂直方向に配向するが、PTCDA配向膜上のH_2Pc薄膜ならびにH_2Pc : PTCDA共蒸着膜では、H_2Pc-PTCDA間に働く強い相互作用を利用して、H_2Pc分子面が平行に配向する様子が観察された。さらに共蒸着膜上にH_2Pc薄膜を形成すると、この最上層のH_2Pc薄膜も希望の向きに分子面を揃えながら成長する様子が観察された。なお、上記の共蒸着膜ならびに多層構造は、電荷分離界面の増大を目指し、現在有機薄膜太陽電池に積極的に導入されている膜構造である。従って、これらの構造制御により、有機薄膜太陽電池全体の電気抵抗の低減や光吸収効率の増大が見込まれる。
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