最終年度においては、配向性のある分子凝集体の電荷輸送について、電荷輸送材料の材料評価の確立を目指した。近年の材料合成の進歩より、0.1〜1cm^2/Vに達する高速駆動する非結晶性の有機半導体が合成されてきたが、その電子伝導機構はモデルが既知のアモルファス有機半導体とは、異なるホッピング伝導機構であることが、本研究によって明らかになってきた。アモルファス有機半導体材料では、エネルギーのディスオーダーσで表される、分子に局在したキャリアの準位の、Gauss型に分布した乱れが〜100meVほどになるが、本研究で扱う材料群の電荷輸送は、これが小さく、ポーラロン結合エネルギーと同等のオーダーで数十meVとしてモデル化すると説明が付き、実験での移動度の挙動を再現した(低温で非活性化型μ〜exp[-c(σ/kT)^2])。このことは凝集体全体でどのような電荷挙動をするかMarcusの式に基づくホッピング伝導のモンテカルロシミュレーションを行うことで明らかになった。一方、TOF法による過渡光電流の測定から、トラップ密度を見積もる手法を確立し、これにより液晶性有機半導体の実験データを例にとり、材料が真に持つ電荷輸送特性を抽出することに成功した。両者を比較することにより、材料固有の電荷輸送の特性の評価が確立された。 本研究において扱ってきた有機半導体は、アモルファスよりは配向性・秩序性のある材料であるが、結晶でもない材料である。有機半導体の特性は半導体であると同時に塗布等で簡便に材料が作成されることにある。結晶等ではこのようなプロセスで高品位な半導体デバイス材料を作成するのは不可能であり、本研究で扱った凝集状態のものが必然的に求められる。本研究のモデルはこのような次世代の高品位な有機半導体材料に対して初めてその評価を可能にさせるモデルであり、真の有機半導体材料開発の指針として重要なものになっていくものと考えられる。
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