希薄磁性半導体GaMnAsの強磁性秩序の発現は、半導体中に生じる正孔と磁性原子であるMnの交換相互作用に基づく。したがって、強磁性転移温度(キュリー温度)の上昇には正孔濃度を増加させることが本質的である。GaAs中でMnはアクセプタとして働く。しかしながらMnを高濃度にドーピングしても正孔濃度はおよそ10^20cm^-3で飽和してしまう。この問題を解決するため、GaAs中で一般的に用いられるアクセプタ不純物であるBeに着目し、MnとBeを空間的に分離してドーピングをおこなった。 MBE法に材料の交互供給を導入したMEE法を用いて試料を製作した。Beドーピング層1ML、スペーサー層3ML、Mnドーピング層1ML、スペーサー層3MLを1サイクルとし、合計500nm成長した。Mnドーピング層の混晶比は8%である。また、比較のため同様の構造で、Beドープ層を取り除いたものも成長した。成長後、窒素雰囲気中、250℃で、120分熱処理を行った。この結果どちらの試料でも正孔濃度が増加することが明らかになった。このことは熱処理によりMnが活性化されたことを示している。これらの試料に対し、SQUIDによる磁化率測定を行った。Beドープ層のない試料では、50K以上の温度ではヒステリシスが観測されなかったのに対して、空間分離Beドーピングを施した試料では、250Kにおいてもヒステリシスが観測された。この結果は250Kにおいて試料が強磁性持つことを示唆しており、空間分離Beドーピングがキュリー温度の上昇に極めて有効であることを示しており、室温における強磁性の発現に大きく近づいた。
|