磁束量子回路の新しい集積化手法と微細化による高臨界電流密度Nb/AlOx/Nbジョセフソン接合を利用した、高速・高密度磁束量子回路のニューロ演算回路への応用を目指して研究を行った。特に本年度は、集積化プロセスの基礎実験とストカスティックニューロ演算システムの設計を実施した。集積化プロセスでは、0.8-1μm角程度のジョセフソン接合の集積化を目的として、i-線ステッパの使用を前提にした集積プロセスの開発に取り組んだ。接合形状を決める要因としてフォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術が挙げられるが、現在のところドライエッチング時の接合特性の劣化が大きく、集積回路に利用可能な微細接合が得られていない。接合の集積化は現在継続中であり、基板冷却やエッチング条件の最適化を中心として次年度に引き継ぐ予定である。一方、ストカスティックニューロ演算システムの設計において、従来から提案を行っていた方式では膜電位の生成に用いるアップダウンカウンタの動作が他の演算ブロックより遅いという問題があった。この欠点を解決するため、新規に高速なアップダウンカウンタを提案した。新たなアップダウンカウンタはアップカウントとダウンカウントを独立な回路で行い、値の読み出し時にアップカウンタの値からダウンカウンタの値を減算する方式である。本回路では原理的にビット数が増加してもカウント信号入力の動作速度が低下しない方式である。数値解析の結果から、50GHzのカウント信号入力のパルス列に対して十分なバイアスマージンで動作可能であることが示された。従って、これまでアップダウンカウンタが律速していたシステム性能の大幅な向上が見込めることとなり、ニューロ回路の約18GHzでの動作(接合臨界電流値2.5kA/cm^2と仮定)が見込めることとなった。
|