研究概要 |
時系列データに基づいて結合非線形振動子の同期解析を行なうための基礎となる研究開発を行なった.特に,結合強度や外力周波数等の係数空間における,同期および非同期の存在領域とその間の境界を示す同期図を逆推定する方法を開発した. まず,従来法である,単一の非線形モデルによる同期図の推定法にアンサンブル法の概念を導入し,推定の頑強化を行なった.結合非線形振動子の単純な例として,周期外力を持つコルピッツ電気回路のシミュレーションデータに適用して,アンサンブル法の有効性を確認した.特に,非線形モデルの最適化に鋭敏であった従来法に比べて,推定の信頼性が格段に向上することが分った. 次に,人間の発話の根幹をなす声帯振動システムに同期図の推定法を応用した.予備実験として,声帯振動を記述する微分方程式モデルに対して手法の有効性,データへの依存性(同期・非同期/カオス・リミットサイクル)を調査した.その結果に基づいて,人間から摘出した声帯を用いた吹鳴実験データの解析を行なった.低次元の非線形モデルによって,声帯の分岐現象や胸声・地声・ファルセット間のレジスター遷移が忠実に再現できることを示した.これは,声帯振動の同期解析のための重要な第一歩であり,声帯病理の自動診断技術への今後の応用可能性を支持している.
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