研究概要 |
非線形振動子の計測データから,同期領域を予測するアルゴリズムの開発を行った.17年度までの研究では,アンサンブル法による基本アルゴリズムの頑健化を行った.これに引き続いて,18年度は,CPR法を組み合わせることによって,非位相調和型カオスへの拡張を行った.CPR法はリカレンスプロット法に基づいて近年開発された新しい同期の判定手法で,計算の際に最もデリケートな問題となる,データからの位相抽出を必要としない.これによって,力学構造が複雑で位相調和性(phase-coherence)を持たないより一般的なカオスの結合系に対しても本手法が適用可能となった.また,拡張手法の外部ノイズに対する特性を詳細に調査し,アンサンブル数十分に増やすことによって,15%程度までのノイズに対して同期領域の予測が精度良く行えることを確かめ,本手法がノイズに対して十分に頑健であることを示した.さらに,化学振動子のデータ(バージニア大学非線形グループとの共同研究),および声帯振動のデータ(フンボルト大学理論生物学科およびチェコアカデミーオブサイエンスとの共同研究)に応用し,実システムに対しても,本開発手法が十分に適用可能であることを確認した.特に,化学振動子の実験系は生物リズム振動子のよいシミュレータとなっており,今後,本手法を脳神経系データやサーカディアン振動子へ応用するためのよい基礎データとなった.また,声帯振動に対する応用は,声帯吹鳴と呼ばれる,人間の声帯振動を忠実に再現した実験系を用いたものであり,将来的には病理音声の自動診断への基礎研究として期待できる.
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