研究概要 |
本年度は,(1)高分子圧電探触子の高性能化,(2)デュアル共振型超音波探触子の開発と性能評価,(3)分割型集束超音波探触子の開発,を主な項目として研究を行った.以下に,得られた研究成果について述べる。 (1)高分子圧電材料であるP(VDF-TrFE)を用いた超音波探触子の高性能化(高感度化及び広帯域化)に対し,その起因となる探触子構成材料の諸特性をパラメータとした等価回路によるシミュレーション解析を行った.探触子を電極層・圧電層・接着層・バッキング層に分け,各層に対し音響特性インピーダンス,減衰率,厚みなどを変化させた.そして,超音波の入射対象物の音響特性を与えて探触子全体の感度と周波数特性を評価した.その結果,実際に作製した高分子超音波探触子とシミュレーション結果が周波数特性で良い一致を示した.また,逆に所望の特性を持った超音波探触子を作製する場合の,最適な構成材料のパラメータが導き出せることが確認できた. (2)高分子圧電フィルムを二枚,厚みを変えて積層することにより,二つの共振周波数を持つデュアル共振型超音波探触子の作製を試みた.このような探触子により,送信時は二枚同時励振により基本周波数の超音波を発生させ,受信時は表層の単層膜で基本波成分と二次高調波成分を同時に受信することを考案した.ここで,閉口き裂による微小な非線形性(つまり,二次高調波成分)をより効率良く検出する必要があるため,表面層には二次高調波周波数より少し低い周波数域で共振する膜厚の圧電膜を採用し,最高感度の周波数特性を二次高調波側に寄せた.これにより,基本波成分と二次高調波成分を効率よく測定することが可能となり,非線形性の測定感度と定量性が向上した. (3)漏洩レイリー波による非線形測定を想定し,分割型集束探触子の作製方法について検討を行った.超音波の伝搬方向を一定方向とし,エッジ波の影響を受けにくい構造とした.一方,接着方法などを最適化し,周波数特性の安定化を試みた.その結果,積層高分子圧電膜が集束探触子に応用できることを実証し,非線形評価への可能性を示した.
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