本研究では、環境に対する制約条件の少ない(環境依存性の低い)雑音除去アルゴリズムの構築を目指す。現在検討している雑音除去アルゴリズムは、(1)音源方向推定部と(2)雑音推定部の2つから構成されている。昨年度は、雑音に頑健な方向推定アルゴリズムとして、対象音源に着目した手法と環境雑音の特徴に着目した手法を提案した。前者は、音源の時間的な振る舞いを統計モデルにより表現し、雑音の影響を受けた観測信号を用いて、パーティクルフィルタにより真の状態空間(音源方向推定のための特徴量)を推定する手法である。後者は、定常雑音を仮定し、時々刻々変化する観測信号から目的音源の優勢な周波数を推定し、その周波数において音源方向を推定する手法である。 本年度は、昨年度提案した2つの方向推定アルゴリズムを統合し、劣悪な雑音環境における音源方向推定の高精度化を試みた。統合した方向推定アルゴリズムは、目的音源のダイナミクスと環境雑音の周波数特徴に関する予備知識を利用し、それらを統計的あるいは決定論的にモデル化したものである。実環境実験の結果、静止音源に対してはSNRが0dB程度の高雑音環境下においても提案法の有効性を確認することができた。また、移動音源の追跡精度に関しては、工場雑音下において音源が滑らかに移動する場合、高々数°の誤差でほぼ正確に音源を追跡できることをコンピュータシミュレーションにより検証した。 来年度は、方向推定部と雑音除去部とを有機的に融合させることにより、非定常雑音環境においても有効な雑音除去アルゴリズムの構築を目指す。
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