地表面過程を考慮した同位体陸面モデル(Iso-MATSIRO)を開発した。3点の地域(オーストラリア/タンバルンバ・ブラジル/マナウス・ドイツ/ミュンヘン)において1年間のシミュレーションを行い、同位体陸面モデルのパフォーマンスを調査したところ、同位体の年間収支、土壌水分同位体比の季節進行及び鉛直分布、植生水同位体比の日変化(昼間に重くなる)、土壌蒸発・蒸散・流出といったフラックス及び土壌水分・樹冠遮断・積雪といった貯留水のそれぞれのδ^<18>O-δD関係は、いずれも尤もらしいものであった。これらの検証は同位体地表面モデル相互比較プロジェクトIPILPS(Isotopes in Project for Intercomparison of Land-surface Parameterization Schemes)で行われた。 次に、既存の大気同位体循環モデルにIso-MATSIROを組み込み、ERA15(ヨーロッパ中期予報センター15年再解析)を用いた実験を行ったところ、中高緯度で季節変動がより精確に再現されると同時に、低緯度でもこれまで存在していた過小バイアスがほぼ消散し、降水同位体比の再現性は全球的に高まったことが確認された。これらの結果から、低緯度では主に降水・水蒸気フラックスによる水蒸気輸送過程が降水同位体比変動を支配していて、中高緯度では水蒸気輸送過程に加えて地表・水面過程の影響が大きい、ということが分かった。 また、蒸発散フラックス同位体比分析用の水蒸気サンプリング機器を製作し、所属機関で管理する熱・水フラックス観測サイト(中国/位山・タイ/ターク)へ同位体フラックス観測システムを導入するための調査を開始した。本件に関する本格設置作業・運転・検証は来年度に行う予定である。
|