研究概要 |
平成19年度では,以下のような研究成果を得た。 1.樹冠による降雨遮断モデルの検討 樹冠による降雨遮断量の正確な見積もりは,降雨一流出の予測において最も大きな課題である有効雨量の決定に大きく寄与する問題である。本研究では,林内に多数設置した雨量計の観測データを用い,林内雨量計で観測される林内雨の構成を,樹冠を通過してくる樹冠通過雨と一旦葉面に付着した降雨が滴り落ちてくる滴下雨に分ける手法の提案と,多層樹冠タンクによる降雨遮断モデルの構築,降雨遮断のシミュレーションを行った。観測データから分離した樹冠通過雨と滴下雨の構成割合は,モデルによるシミュレーションの結果とほぼ同等の値でありモデルの妥当性が証明された。 2.降雨遮断分布を組み込んだセル分布型流出モデルの開発 流域内における降雨遮断量の分布を組込んだ分布型流出モデルを開発し,降雨遮断量分布が流出計算に及ぼす影響を調査した。前述の詳細な降雨遮断モデルは,分布モデルに組み込むには植生タイプごとのモデルパラメタの推定を行わなければならない等の課題が残されているため,RSデータより作成された樹冠疎密度分布(樹冠開口度)のみを用いた簡易的な降雨遮断量推定モデルを用いた。上流域はほとんど森林であるため,樹冠疎密度が高い,すなわち降雨遮断量が高く,下流域は農地,都市域であるため,降雨遮断量は低いという降雨遮断量に関する特性から,降雨遮断量の分布を考慮したモデルは流域平均雨量を用いたモデルより,ピーク流量が高くなると予測される。実際に降雨遮断量の分布を考慮したモデルと,流域平均雨量を用いたモデルの比較を行ったところ,予測通りの結果となり,降雨遮断量分布導入の効果が確認できた。 本研究により,樹冠による降雨遮断現象と洪水流出量への影響の一部が解明され,豪雨時の降雨遮断量,有効雨量の算出,洪水流量の予測精度向上に大きく寄与すると考えられる。
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