本研究では、信号サイクル長が短く且つ自動車・歩行者双方の安全安心が実現される交差点の設計ガイドラインの作成を目標に、本年度は特に以下の通り歩行者の行動・心理特性の充分な把握と、自動車・歩行者の双方を扱うことのできる総合的交差点シミュレーションモデルの構築を行った。 1 バーチャル歩行シミュレータによる交差点空間での歩行者心理と行動原理の解明 (1)中央帯滞留時の不快感計測実験 まず、歩行者が中央帯に滞留時にどのような不快感を感じるのかを主観反応と心拍変動から計測する実験を行った。その結果、中央帯滞留時には歩行者は「苛立ち」より「不安」を重視しており、歩行者の二段階横断を前提とした中央帯設計には、幅員3.5m以上の中央帯が求められ、幅員がそれに満たない場合は防護柵の設置が「不安」の軽減に有効であることが明らかとなった。 (2)総合的歩行行動計測実験 更に、交差点の手前の歩行空間も考慮に入れて、交差点条件に応じた歩行者の行動と心理を計測する実験を行った。その結果、歩行者は横断歩道に至る手前から距離と残り時間を独自に推定しながら歩行速度を設計しており、その時空間には歩行者が快適な速度で歩ける「安心領域」、走らないと渡りきれない「不安定領域」、そして一回信号を待たなければならない「待機領域」の3領域が定義できる可能性が明らかとなった。また、サイクル長の短縮により不快感が軽減される可能性も示唆された。 2 歩行者・自動車双方から見た交差点総合評価モデルの開発 以上の歩行者の特性を既存の自動車交通モデルに加え、自動車・歩行者の双方を表現することのできる交通シミュレーションモデルを作成し、ある大規模交差点を対象にサイクル長を変化させた場合の自動車・歩行者への効果を計測した。その結果、自動車交通量が過飽和な状況でなければ、サイクル長の短縮は自動車・歩行者双方の時間短縮に繋がる可能性が明らかになった。
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