本研究は、交通事業者や行政による維持・確保が困難となりつつある地域公共交通を、地域社会や沿線企業などが中心となって成立させている事例を取り上げ、それらの特徴および成立過程について詳細に分析し、各事例に共通する特徴を抽出・分析することにより、地域社会や沿線企業が中心となる地域公共交通の企画・維持スキームの形成プロセスとして、全国に適用可能な方法論を構築することを目的とする。 本年度は、地域社会や沿線企業などの新たな主体が中心となって行っている地域内公共交通の維持・確保事例26例を対象として、それに関係する行政、交通事業者、沿線企業、地域住民などにヒアリング調査を実施し、データベースを整備した。 調査結果を用いて、地域内公共交通の運営に関与する5主体「利用者」「行政」「交通事業者」「沿線企業」「地域住民」の役割分担の状況について検討した。役割分担の軸として、「人」「金」「心」「口」という4軸を設け、各主体がこの4つのうち何を拠出したのか、その理由は何であるか、拠出しなかったのはどのような理由からか、について整理し、事例毎の共通点や相違点を整理した。以上の結果、「ボトムアップ型公共交通維持スキーム」の有効性「地域住民」の参画にあり、これが利用促進につながっていることが明らかとなった。 また、地域内公共交通の「運営形態」が選択されるに至った経緯についても分析を行った。地域住民や沿線企業が中心となって公共交通を運営するとき、交通事業者や行政が公共交通を運営する場合と比較して、資金・法律・人材などの面で多数の「制約条件」が存在することから、それが「運営形態」の選択にどのような影響を及ぼすかについても明らかにした。
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