昨年度の建築や都市の公共空間に関するパブリックアクセスに関する国内外での調査に基づき、主として研究成果の発表を中心に行った。また並行して、ユニバーサルデザイン概念の発祥国であるアメリカでの官民協働型プロジェクトを中心に引き続き情報収集を行った。 第7回環境行動研究国際シンポジウム(Proceedings of the 7th International Symposium for Environment-Behavior Studies)で発表した論文では、NPOが中心となって手掛ける米国の大型住宅地開発のケーススタディを行い、エスノメソドロジーの観点から開発主体と様々な評価主体との間のコミュニケーションとその成果を詳細に分析することで、社会的使命の遂行を第一にし、資金的ストックを最終目標としないNPOが事業主体となることの居住環境デザインへの具体的な効果と意義を明らかにした。 また日本都市学会第53回大会における研究発表では、米国でもっとも早くから都市計画に関する州政府の権限が移された地方自治体の一つであるウィスコンシン州マディソン市に注目し、同市が意欲的に取り組んでいる参加型の開発評価プロセスの仕組みを紹介した。そして、その開発評価プロセスのシステムについて制度的指向性の観点から分析を試み、我が国の今後の政策改善に向けての見解を示した。 ディベロッパーや建設会社、近隣住民、その他の利害関係者が開発評価プロセスへの関与により協力的になればなるほど、開発プロジェクトは成功に近づくと考えられるが、その成功は複数の評価主体が単に"参加している"ということで保証されるわけではなく、"どのような姿勢と方法"で参与するのかが決定的な意味をもってくる。トップダウン的に見た「誰を参加させるか」という議論から、「ある評価主体が参加することの意味は何か、それがどのように意思決定・合意形成あるいは生活環境の改善へ繋がるのか」へ踏み込んだ議論へと世論を展開させるべく、今後も研究を継続したい。
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