今年度実績は以下2点である。第一に国内及び米国ワシントンDCでの資料収集を行い、地役権保全プログラムの基礎概念である「地役権」に関する研究論文・基礎文献の収集を完了した。第二に米国内動向調査として、研究計画に記したオハイオ州の主要都市調査は訪問予定先との日程調整がつかなかったため次年度以降に先送りし、今年度の研究目的を達成するためにオハイオ州と同様の条件として米国内の古い都市が多数分布する北東部から中西部からボルチモア市、インディアナポリス市、セントルイス市、バッファロー市の調査対象地に選定し、都心部(ダウンタウン)の歴史的地区における地役権保全プログラム(HCEP)活用動向とその背景となる歴史保全手法の一般的動向の調査を実施した。北東部の海沿い主要都市ボルチモア市では近年の歴史的建造物の修復活用に際して、歴史保全組織Preservation MarylandによってHCEP活用が促進されている実態が明らかになった。メリーランド州ではHCEP運用の過程で発生する州税控除の権利を州内金融機関のシンジケート組織が購入する仕組みが整備されており、これがHCEP利用を促進していると考えられる。一方、中西部の主要都市インディアナポリス市およびセントルイス市、北東部の内陸主要都市バッファロー市では、歴史的建造物の修復による住宅供給は進展しているが修復に伴う税控除の活用が中心的手法として普及し、歴史的建造物が集積する都心部でもHCEP活用は確認されなかった。特にセントルイスでは都心部での歴史的建造物の修復活用事業が近年特に盛んに行われているが、HCEP運用資格を有する歴史保全系の民間非営利組織ではなく一般の民間企業や市が建物活用のために修復を進めていたためHCEPが活用機会を得られていない実態が明らかになった。各州法でHCEP制度は整備されているものの、いずれの都市でもHCEP活用は郊外部の歴史的住宅の保全事例に限定されていた実態が明らかになった。
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