本年度は、中国に現存する塔を中心に、関連する木造建築や石窟寺院などを実見・調査した。調査地は、山西省の大同〜五台山〜太原と福建省の厦門〜泉州〜福州である。 山西省の塔 仏宮寺釈迦塔(応県、1056年)は、八角平面の五重塔で初層に裳階のつく外観をもつが、内部を9層に造り隔層中央に巨大な仏像を祀る。注目すべきはその構造で、側柱と入側柱を横材や筋違を多用して緊結し、内部に無柱空間をつくる。また入側は各辺1間だが、入側柱上から放射状に組物を出して側まわりは各辺3間とする。塔身が巨大なせいか、軒の出は小さく感じるものの実長では4m近くある。八角平面ならではの技法もあるが、巨大な塔の内部に仏像を祀るための工夫を見て取ることができ、韓国や日本の巨大な塔にも応用できるかどうかを今後検討しなければならない。雲崗石窟(大同市、5世紀)に見える塔心柱は各層に仏像を象っており、古い時期から、塔の上重を使用するのは中国では一般的であった。 福建省の塔 福建省は良質の花崗岩が採掘できるため、現存する塔はすべて石造である。海岸線に近い地域では、六勝塔(晋江県石湖村、1336〜1339年)や姑嫂塔(晋江県石獅市、1131〜1162年)のように、いわゆる仏塔ではなく航海の目印として建てられたものもある。ただし、その意匠や構造は仏塔と変わらず、考察からはずすことはできない。六勝塔の意匠は、開元寺鎮国塔(=東塔、泉州市、1250年)に通じ、開元寺仁寿塔(=西塔、泉州市、1237年)とともに、組物や屋根まわりなどあきらかに木造塔を模している。開元寺仁寿塔は八角五重塔で、初層から二重は一辺を3間に割るが、三重より上を2間とし、遅れてつくられた鎮国塔(八角五重塔)では五重までを3間に割っており、あたかも日本の当麻寺東塔と西塔(奈良県葛城市)をみるようである。八角平面の塔が主流なことや、上層まで登ることができる点、相輪の意匠や支持法など、日本の木造塔と異なる部分が少なくないものの、石造では不利な比較的長い軒の出を実現させるなど、〓塔よりも木造塔の要素を十分に伝えている。
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