昨年度にひきつづき、東寺百合文書・教王護国寺文書所収の造営関連史料から建築用語を収集した。東寺百合文書所収の鉄・釘関係の取引史料では、拙稿「釘の『連』」で注目した「連」単位での釘の取引に加えて、「文目」「貫目」などの重量単位による取引や、古鉄売買の取引時の史料が注目された。こうした史料は、鉄原料→鉄製品(釘・鎹など)の生産→使用済みの古鉄再利用という、資源の循環と流通の様子を知る重要な手がかりと言える。現在、これらの商品の単価の整理を進めており、中世における釘の生産・流通・消費・再生の流れが解明されつつある。また、造営関連史料の諸所に散見される人名なども蓄積されてきている。 こうした成果は、建築用語データベースソフトに入力を継続中である。データーベースのフォーマットは、昨年度試験的に入力したものを使用したが、史料にでてくる用語では説明が不十分な場合、どのように情報を補足していくかという点などに課題が残った。来年度の課題としたい。 近畿圏での地域性についての考察として、東寺以外の造営関連用語をみるために、春日社記録、大乗院寺社雑事記、北野社家日記などを検討した。現段階では、使用する用語はある程度の共通性が認められている。近畿圏の工匠間で、こうした用語が統一した背景としては、やはり生産・流通の場でのやり取りがあったのだろうか。 建築用材については、大仏様の建築について部材の規格化の先行研究が蓄積されているため、今後の参考資料とするために、これまでの先行研究の成果をまとめ、「重源と大仏様建築」にまとめ、奈良国立博物館『大勧進 重源』に発表した。
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