本年度は、高弾性歪み下での母合金と溶質原子の結合状態、また、高歪み下での溶質原子周辺の欠陥の安定構造と安定性を計算機シミュレーションによって調べる予定であったため、まず、HIT製ハイ・パフォーマンス・コンピュータを購入し、第一原理計算プログラムであるVASPを導入した。現在、結晶モデルに歪みを与えて溶質原子周辺の結合状態を調べるための準備計算まで終わっている。その結果は以下の通りである。2×2×2のスーパーセルを作った場合のbcc Fe中の単空孔の形成エネルギーは2.026eVであった。仮想的な結晶であるbcc Cu中の単空孔の形成エネルギーは0.998eVであった。また、bcc Fe中に15原子のbcc Cu析出物を作り、その近傍に原子空孔を導入した。原子空孔を析出物の中心に作った場合、その形成エネルギーは1.079eVであった。一つずつ外側にいくにしたがって、1.238eV、1.256eVと変化した。Cu析出物に隣接したFe原子の場所に原子空孔を導入した場合には1.430eVとなった。また、Ni中のAu原子の周辺に格子間原子集合体を導入し、その移動エネルギーの変化を調べた。これにより、格子間原子集合体によって発生する弾性的な歪みと溶質元素の関係を調べた。Au原子が存在しない場合は、19個の格子間原子集合体は0.1eV以下で移動した。それに対して、集合体の進路にAu原子が存在し、移動を妨げるとその移動エネルギーは1eV近くまで高くなった。移動を妨げるAu原子の数が多くなるにつれて、その移動エネルギーは高くなった。来年度は、引き続き高歪み下での溶質原子と点欠陥の関係を調べていくとともに、電子顕微鏡によるNi基合金やCu基合金の引張破断面近傍の観察を行っていく予定である。
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