本研究では、高弾性歪みが発生するサイトに注目し、その歪みが点欠陥の形成や移動に及ぼす影響を調べた。まず、Fe-Cu合金における原子空孔の形成エネルギーの変化を第一原理計算プログラムVASPを用いて調べた。2×2×2のスーパーセルを作った場合のbcc Fe中の単空孔の形成エネルギーは2.026eVであった。bcc Fe中に15原子のbcc Cu析出物を作り、その近傍に原子空孔を導入した。原子空孔を析出物の中心に作った場合、その形成エネルギーは1.079eVであった。一つずつ外側にいくに従って、1.238eV、1.256eVと変化した。Cu析出物に隣接したFe原子の場所に原子空孔を導入した場合には1.430eVとなった。純Fe中の原子空孔の形成エネルギーより低くなっており、これが起こる要因の一つにFe中にCuが存在するときに発生する歪みが挙げられる。次にNi中に63.60%オーバーサイズであるAu原子を入れて、格子間原子集合体の移動エネルギーの変化をシミュレーションにより求めた。19個までの格子間原子の集合体について計算を行った。Au原子が存在しない場合は格子間原子集合体の移動エネルギーは0.1eV以下であったが、Au原子が存在すると、1eV近くまで移動エネルギーは上昇した。また、ポテンシャルのパラメータを変化させることで、溶質原子の大きさを自由に変えた時の移動エネルギーの変化を調べた。溶質原子の大きさはNi原子に対して、-30%から100%まで変化させた。Ni原子に対する大きさが正でも負でも変化量が大きくなるに従って移動エネルギーは高くなった。また、中性子照射したNi-Au合金を電子顕微鏡観察することで、実験的にも溶質原子により発生する歪みの影響で格子間原子集合体の移動エネルギーが高くなり、照射損傷組織が変化することを確認した。
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