層状複水酸化物(LDH)は、様々な陰イオンを層間に挿入できることが知られている陰イオン交換体である。このLDHは通常、沈殿として作製されるが、コーティング膜として様々な基材の上に形成できれば、LDHの応用が広がることが期待される。本研究では、ゾル-ゲル法で作製したアモルファスのAl_2O_3-ZnO系薄膜を温水処理することによって、炭酸イオンが層間に挿入されたZn-Al系LDH微結晶が基板上に生成することを見出した。具体的には、酢酸亜鉛2水和物とアセト酢酸エチルで化学修飾されたアルミニウムブトキシドを使用してコーティング溶液を調製し、この溶液を用いてガラス基板にディップコーティングし、400℃で熱処理することによってアモルファスのAl_2O_3-ZnO系薄膜を作製した。この薄膜を、98℃の温水に浸漬したところ、15分の浸漬によって白濁することがわかった。電子顕微鏡により組織を観察したところ、膜表面に1μm以上の大きさの六角板状の微結晶が緻密に析出しており、X線回折測定により、0.72nmの層間隔をもつ層状結晶が析出していることが確認された。この結晶は、炭酸イオンが挿入されたZn-Al系LDHのピークに帰属され、温水中に空気より溶存した炭酸イオンが層間に挿入されたと考えられる。さらに、LDHにインターカレートすることが知られている界面活性剤のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を温水処理の際に添加した場合には、面間隔2.7nmの層状結晶が析出し、ドデシル硫酸イオンが挿入されたことが確認できた。LDHは通常粉末として作製されるが、本研究で得られた方法では、透明なガラス基板上に直接析出させることができるため、その生成機構の検討や光学的な応用の可能性を広げると考えられる。
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