本研究では、新規リチウム-遷移金属系錯体水素化物Li(M-H)(ここでMは遷移金属)の合成を試みた。本研究の目的は、i)Li(M-H)の生成組成域を明らかにするとともに、ii)Mと水素化・脱水素化特性の相関を調べ、錯体水素化物の安定性に及ぼすMの効果を明らかにすることである。得られた成果は以下の通りである。 1)前年度の結果より遷移金属MはLiの代わりに陽イオンになることが明らかとなった。そこで今年度は陽イオンとして遷移金属MとLiを含む陽イオン置換系錯体水素化物の合成を進めた。その結果、M=Zr、Hfでは(M-Li)B-H系錯体水素化物が合成できるが、その他の遷移金属では合成できないことが分かった。この合成可能範囲はMとLiの電気陰性度χ_pの差およびMの価数により整理できる。つまりMとLiの電気陰性度掬の差が比較的近く(Liのχ_pが1.0に対してMのχ_p<1.4)、Mの価数が大きい場合に置換試料が合成できることが明らかとなった。 2)1)で合成された(M-Li)B-H系錯体水素化物の脱水素化温度は、(M-Li)の平均電気陰性に依存する。つまり平均電気陰性度が大きくなると、(M-Li)とB-H錯イオン間のイオン結合が弱まるため脱水素化温度が低温化することが明らかとなった。これは置換していないM-B-H系錯体でみられた傾向と同じである。Mの電気陰性度は元素によって不変であるが、(M-Li)とすれば平均電気陰性度が調整できるので、脱水素化温度を任意に制御できることが明らかとなった。 3)リチウム-遷移金属-水素化物の合成は困難であるが、カルシウム-遷移金属-水素化物は合成でき、水素量によって水素の状態は固溶〜イオン結合〜錯イオン(共有結合)へと多様に変化することがわかった。この系は、固溶型水素化物と錯体水素化物の結合性を系統的に調べる上で非常に重要な系になるであろう。 新規リチウムM遷移金属系錯体水素化物の生成組成域および安定性を明らかにした本研究の結果は、軽量水素貯蔵材料の今後の研究開発に有用な情報を与えると考えられる。
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