電析法によって作製されたナノ結晶組織を有するニッケル合金は、非常に硬く耐摩耗性に優れることから、マイクロマシンの摺動部用材料として有望であると考えられる。本研究では、電析ナノ結晶ニッケルータングステン合金のすべり摩耗特性に及ぼすナノ結晶化の影響を実験的に明らかにすることを目的とした。電析ニッケルータングステン合金の作製は、硫酸ニッケル、タングステン酸ナトリウムおよびクエン酸からなる電析浴を用いて行なった。電析浴組成およびpHの調整により、タングステン含有量が固溶限以下の24mass%で、初期粒径27nm、試料表面が(200)面に強く配向したニッケルータングステン合金を得た。この初期試料を温度573Kから673K、真空中で種々の時間熱処理することによって、27nmから94nmの平均結晶粒径をもつ試験片を作製した。いずれの試験片においても熱処理によって第2相の形成は認められず、ニッケルにタングステンが固溶した単相組織であることを確認した。微細組織、硬さ、破壊抵抗およびすべり摩耗特性を評価した。すべり摩耗特性は、ピンオンディスク形式の試験機を用いて、押し付け力1.3N、乾式、室温、大気中の条件で行なった。その結果、ニッケルータングステン合金のすべり摩耗時の比摩耗量は、試験片の結晶粒径が小さくなるのに伴い減少することが明らかになった。結晶粒径27nmの試験片では、結晶粒径94nmの試験片に比べて、比摩耗量が1/2以下まで減少することがわかった。しかし、結晶粒径の微細化に伴う硬さの増加によって単純に耐摩耗性が改善されるわけではなく、試験片の破壊抵抗も寄与する可能性が示された。 以上の結果より、電析ニッケルータングステン合金の耐摩耗性の向上に対して、材料のナノ結晶化か有効である可能性が示された。
|