地球表面の約70%を占める海には、地球上で最もCO_2固定能力が高い、海洋植物プランクトンが生在しており、炭酸ガスの削減・固定化を考える上では、キーとなる生物である。しかしながら、世界の海域の大部分では、海洋植物プランクトンが増殖する際に必要な栄養元素が極端に不足している。海洋植物プランクトンを増殖させ、CO_2の削減・固定をはかるためには、りん、珪素、鉄などの栄養元素がバランスよく存在する必要がある。一方、年間約100万トンが埋め立てに使用されている鉄鋼プロセスの副成品である鉄鋼スラグは、りん酸、珪酸、酸化鉄を豊富に含むイオン性結晶であり、植物プランクトンの増殖に必要な栄養元素の供給源として用いることができると考えられる。しかし、鉄鋼スラグには、クロムなどの重金属やフッ素が含まれている場合があり、これら有害な元素の溶出防止、安定化方法の確立が早急に望まれる。 プランクトンの成長・増殖を促進させるために有用成分を海水中へ加える際には、海水への有害成分の溶出各元素の添加技術が重要課題となる。H14-16年度の科学研究費では、スラグ中結晶相の水溶液中での安定性が、栄養成分溶出挙動に大きく影響することがわかり、海水への成分溶出挙動メカニズムを解明しつつある。本成果を応用して、H17-18年度に製鋼スラグから有害元素が溶出しないような安定化技術の開発を行う。 H17年度は、各鉄鋼会社から提供された鉄鋼スラグをサンプルとして、スラグ中に存在する結晶相の同定をEPMA(電子プローブ微小分析)装置を用いて行った。また、単相化合物相を人工的に合成し、人工海水中への溶出試験を行った。さらに、海水中のイオンと結晶相間の化学平衡計算により、海水中の結晶相の安定条件を求め、有害元素が安定・無害化されるような複合化合物相を相安定図計算により推定した。
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