申請者は、軽油とヨードメタンおよびテトラフルオロほう酸銀を反応させることにより、軽油中の硫黄化合物をスルホニウム塩の沈殿として回収する「アルキル化沈殿法」を新たな軽油の脱硫法として提案した。本研究では、アルキル化沈殿法により回収したスルホニウム塩を光機能性材料として用いる新規有機合成プロセスを実現することを目的として行った。 エポキシドの開環重合は、有機合成上最も重要な高分子合成反応の一つである。この反応は、スルホニウム塩を開始剤として加えて光照射を行えば、スルホニウム塩からのアルキル基の脱離を開始反応として効率的に進行させることができる。ところが、従来のスルホニウム塩は合成が複雑であり、かつ高価である。本研究では、原油の直接脱硫により得られた直留軽油、ならびに残油の接触分解により得られた接触分解軽油をアルキル化沈殿法により脱硫した。得られたスルホニウム塩を重合開始剤としてグリシジルフェニルエーテルの開環重合を行い、その重合開始剤としての活性を調べた。これらのスルホニウム塩を開始剤とすることにより、グリシジルフェニルエーテルの開環重合が速やかに進行し、その活性は従来用いられているスルホニウム塩よりも高いことが分かった。軽油の脱硫により得られたスルホニウム塩は電子供与性のアルキル基を多数有するため、大きな吸光度をもつ。またこれらのスルホニウム塩の硫黄原子の電子密度は低く、硫黄原子に置換したアルキル基は脱離しやすい性質をもつ。したがって、軽油の脱硫により得られたスルホニウム塩は、光励起されやすいだけでなく、アルキル基を脱離しやすい性質を有することが分かった。これが、これらのスルホニウム塩の重合開始活性の高い原因である。また、二種の軽油の中では、直留軽油より得られたスルホニウム塩の活性が高いことが分かった。これは、直留軽油より得られたスルホニウム塩が大きな吸光度をもつ多環チオフェン類から構成されており、より光励起されやすいためであることを明らかにした。
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