酵母に高糖濃度耐性を付与する技術は産業上非常に有用であるが、未だ確立されていない。研究代表者らは、細胞壁糖タンパク質Sed1pを高発現させることで出芽酵母の高糖濃度耐性が向上すること、ワイン酵母や清酒酵母等のSED1遺伝子のコード領域の長さが、醸造環境特異的に異なることを既に見出している。平成17年度は、SED1遺伝子による高糖濃度耐性機構を詳細に解析した。まず、SED1の高糖濃度耐性における役割を調べるためにSED1破壊株である、Δsed1株を構築し、高糖濃度耐性試験を行った。その結果、Δsed1株と野生型株は対数増殖期の細胞において高糖濃度条件下での生育に差が見られなかったのに対し、定常期の細胞においてΔsed1株は高糖濃度条件下で野生型株に比べ顕著に生育の低下が見られた。従って、SED1は定常期における高糖濃度耐性に必要であることが明らかになった。SED1高発現株における高糖濃度耐性機構を詳細に調べるために、細胞壁溶解酵素Zymolyaseに対する耐性を調べたところ、SED1高発現株においてZymolyaseに対する耐性が強化されていた。また、走査型電子顕微鏡による観察の結果、SED1高発現株では細胞表層の形態が粗くなっていた。さらに、Sed1Pの細胞壁への局在に必要なKRE6遺伝子を破壊すると、SED1を高発現しても高糖濃度耐性とならないことを見出した。以上より、Sed1pは細胞壁に局在することで、高糖濃度耐性に重要な役割を果たすことが明らかになった。そこで、高糖濃度耐性の異なる各種酵母におけるSED1遺伝子の構造を解析したところ、顕著な高糖濃度耐性を示すワイン酵母OC2株のSed1pは実験室酵母のSed1pよりも、3個のシステイン残基を含む51アミノ酸のリピート構造が1つ多いことが示唆された。
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